聖書「正典」論

聖書正典論 (世界的な聖書の体系学者・渡辺善太氏の「聖書正典論」への岡村民子博士による入門書です。)   ・はじめに 音楽界の巨匠トスカニーニ、クライスラー、ジンバリスト、ブロッホ、プロコフィェフ、ラハマニノフらを客とする、ニューヨークのある家における晩餐会での出来事を、山田耕筰氏は次のようにしるしております。 やがてデザート・コースに入ると、話はその日のトスカニーニ指揮のベートーヴェン『第八』に及んだ。私の隣にいたジンバリストは、その日のスケルッオのテムポが、やや早過ぎたのではないかとトスカニーニにきいたのである。向う側のクライスラーがそれに同調した。トスカニーニはしかし平然として、『作曲者の指定どおりに演奏するのが私の信条です』と答えたのであった。 あちらからもこちらからもいろいろな意見が出て、宴席の空気はやや白けて来た。その時G夫人が立って、『マエストロ(先生)、では、ミスター・メトロノームにきいてみましょうね。』と傍らのトスカニーニに言うのであった。 そして隣の演奏室にあったメトロノームが卓上にすえられた。『では、私がその問題の提出者だから』とジンバリストが、メトロノームを作曲者の指定した目盛りにあてがった。かたずをのんだ一同の視線は、期せずしてジンバリストの手に集った。するとトスカニーニは、指揮台に立った時と同じ姿勢で、かるく右手を振りはじめた。ジンバリストは一瞬ためらいを見せたが、意を決してその手を放した。どうであろう、メトロノームは、まるでトスカニ…

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